精神科および精神科医のこと

双極性障害について、知っておいてほしいことなど。

双極性障害について知っておいてほしいことなど。とくに2型。そうとうつ、というよりは、うつを繰り返す病気です。 まず、身体の病気だと考えたほうがいいと思います。いろいろ事情があって落ち込んでいるのとは明らかに違います。身体が重すぎて動かない、…

超健康幻想について。

超健康幻想ということばがあります。「この病気や障害さえなければ、完璧にしあわせで順調な生活が送れるはず!」「この病気や障害がない人は、完璧にしあわせで順調な生活を送っているはず!」という幻想のことです。こうやって書くといかにも幻想ですね。…

小学生はうつ病になりうるのか。

ツイッターで、小学生はうつ病にはならないと言っている人と、うつ病になると言っている人の両方を見かけました。 ◆ うつ病の定義の問題だと思います。古典的な定義と、最近の定義。 古典的な定義におけるうつ病↓ ・どっちかというと身体(神経)の病気、体…

発達障害と障害年金。

発達障害は生まれつきの障害ですし、病気や障害のために働けなかったり生活に支障が出ていたりする人がもらうのが年金である、という定義からすると、障害年金の対象ではあります。しかしこれ、正直言って「通りづらい」です。通りづらいというのは、たとえ…

うつとうつ病と適応障害について。

「うつ」って、よくいいますよね。 「ゆううつ」の「うつ」です。気分が落ち込んだまま明るくなれない、やる気が出ない、動きたくない、というか動けない、という感じの状態を指します。 ◆ 状態、といいました。 たとえば、「腹痛」は、病名ではありません。…

感情労働が感情労働でありえるかどうか。

感情労働、ということばがあります。Wikiによれば、「感情が労働内容の不可欠な要素であり、かつ適切・不適切な感情がルール化されている労働のこと」とのことです。 たとえば、相手が、たんに機嫌が悪くて怒っていて、やつあたりをしてきたとしても、礼儀正…

くすりの副作用のこと。

薬って、たいてい副作用がありますよね。精神科の薬でいえば、眠気とか吐き気とか、運転しちゃダメですよとか、手がふるえるとかがありがちかしら。でね、これ、共通の副作用ってあると思うんですよ。毎日のむ薬のすべてについての副作用。 ◆ ひとつは、「こ…

軽度知的障害/境界域の人の苦労について。

軽度の知的障害、あるいは境界域(知的障害とまではいわないけどIQが低め)のひとは正直言って人生の苦労が多いと思います。 1つ目は福祉です。たとえば年金だって、重度の知的障害なら高い確率で通ります。そのいっぽうで、境界域の場合は、他に病名がつか…

手帳と年金以外のサポートについて。

精神科における「支援」というのはいろいろな意味があります。有名なのは障害者手帳と年金でしょうか。とはいっても、手帳と年金「だけ」ではないです。手帳と年金「だけ」を求められるとちょっと複雑な気分です。というのも、手帳や年金は、日常生活に支障…

共感の代わりになりうるものについて。

相手の感情に反射的に応答する「共感」は、わたしには無理です。たぶん、一生無理だと思います。じゃあ、相手の感情に応答することが100%無理なのか。100%無理ってほどでもないんじゃないかなあ、というのがわたしの希望的観測です。磨ける技術を磨…

精神療法とは何かみたいなこと13。その希望にはそいかねます。

たとえば躁状態の人が外来に来たとしましょう。 「たいへん気分がよいです。この躁状態を続ける薬をください」 たとえば摂食障害でやせすぎている人が外来に来たとしましょう。 「さらにやせる、食欲の減る薬はないですか」 …… 病院に来た目的を、主訴と呼び…

精神療法とは何かみたいなこと12。そのリスクはつねにある。

医者患者関係は本質的に不平等だという考え方があります。考え方というより事実のようにも思います。 わたし自身についていえば、患者さんには怒られるし注意されるし「くすりのんでません」とかあっけらかんと報告されるし、距離がおかしいという指摘もあり…

精神療法とは何かみたいなこと11。分業の是非。

ここまで、精神科医と心理士、という比較をしてきました。 最大の違いは時間かもしれません。とくに病院勤務の場合、精神科医は「患者さんを診てカルテを書く」だけが仕事ではありません。そもそも、外来患者さんに加えて入院患者さんを受け持ってますし、と…

自立支援のこと。

自立支援制度について、いろいろ誤解があるようなので少し説明します。 ◆ これは、「通院費が安くなる制度」です。 診察代と薬の代金が安くなります。札幌市では1割負担になります。 また、月ごとの限度額が設定されます。たとえば限度額が5000円なら、…

精神療法とは何かみたいなこと10。誰にとってのプラセボ?

プラセボ効果というものがあります。効くと思ったら効く、というあれです。鰯の頭も信心から。これと信じて、水を飲め。ご想像のとおり、精神科ではかなり有効です。よく効く薬が少ないという事実も、残念ながらあります。治験(新しい薬がほんとうに効くか…

精神療法とは何かみたいなこと9。病名というカード。

「これまでと現在、そして未来の展望がちゃんと伝わっていれば、病名は聞かれない。病名をたずねられるのは、こっちの負けなんだわ」 …と、習いました。一年目の頃です。 勝ったり負けたりしています。一年目に教えてもらっておいてよかったことのひとつです…

精神療法とは何かみたいなこと8。聴くだけならば安全?

さて、前の記事で、「ひとこと言う」ということをとりあげました。 全部聴いた上で、「過労です。すでにトリプルワークではないですか」とコメントしたとしましょう。比較的無害な例をあげたつもりです。しかし、「とにかく聴く派」の人たちからは以下のよう…

精神療法とは何かみたいなこと7。一言多い、一言少ない。

さて、話を聴くことそのものが精神療法で「ありうる」として、それだけなのか、という問題です。聴けばいいのか。聴きさえすれば患者さんは自分で答えを見つけ解決していくのか。 「そのとおり」と言いたい気持ちはあります。実際そのとおり、という人は一定…

精神療法とは何かみたいなこと6。話を聴いてください!

「話を聴いてほしい」というリクエストはよくあります。 「話を聴いてほしいとのことです」と、看護師さんに言われることもあります。 「話を聴いてくれなかった!」との不満もしばしば耳にします。 ◆ 話を聴くというのは技術だと思います。「相手がしゃべっ…

障害年金のこと。

ツイッターでも現実世界でも、ときどき話題になる障害年金。 これね、まず、2種類あります。 障害「基礎」年金と、障害「厚生」年金です。 前者は国民年金加入者用、後者は厚生年金(+国民年金)加入者用です。 障害基礎年金(国民年金のみの人)→1級と2…

精神療法とは何かみたいなこと5。伝統的?診断のこと。

たとえば、30代女性の患者さんが「最近あまりに落ち込みがひどいので来ました」と外来に来たとしましょう。 ・生理前!(月経前症候群、PMS)、甲状腺 ← ホルモン ・まさにうつ病/躁うつ病 ・パワハラとか介護がとか、いろいろな「事情」 ← 適応障害 ・そも…

精神療法とは何かみたいなこと4。医師免許のつかいみち。

精神科医と心理士を比べたとき、大きな違いは 精神科医には医師免許がある だと思います。 ◆ 医師免許でできることはいろいろあります。 そのなかでもインパクトが大きいものに、 薬が処方できる (処方権) というものがあります。 いや、薬を処方するとい…

精神療法とは何かみたいなこと3。ふつうのことば?

「患者さんの症状について、 彼/彼女に対して失礼にならない、ふつうのことばで症状を説明し おたがい納得できたならば、 その説明そのものが治療的である」 という意味の文章を読んだことがあります。 (ちょっと翻訳しました) ◆ ちょっと解説。 これ、主…

精神療法とは何かみたいなこと2。ストレートにたずねられてしまった件。

前回にひきつづき。 精神科医が行う診察を「精神療法」と呼びます。 なんなんだ、と思いますよね。 わたしは思います。 ◆ 「本で、この病気の治療は薬と精神療法であると読みました。 薬が効いたのはわかります。ところで、精神療法ってなんですか」 ストレ…

精神療法とは何かみたいなこと。

心理士の友人に、 「医者って、薬を処方できるぶんほんと楽だよね」 と言われたことがある。 まったくそのとおりだと思った。 ◆ 薬を処方することには、少なくとも、 ・患者さんが、なにかしてもらった気になる ・医者が、なにかよいことをした気になる とい…

安定剤の副作用について。

精神科業界の、「いまそこにある大問題」のひとつです。 ここで安定剤というのは、「マイナートランキライザー」「ベンゾジアゼピン系」といったものとほぼ同義です。デパス/ソラナックス/リーゼ/ワイパックスが代表です。「メジャートランキライザー」に…

精神科における【誤診】のこと。

誤診というのはかなり恐ろしいことばです。昔々、東大で名医という評判をほしいままにした内科医が、解剖と照らし合わせて自らの誤診率を15%と公表したことがありました。多くの人々が「東大の先生ですら、そんなに誤診するのか」と驚いた一方で、多くの医者…

アスペについての精神病理。頭の整理をかねて。あずさ自身を症例として。

精神病理というのは、それぞれの病気の症状がどういうわけで形成されてきたのかを考える学問です。昨今、残念ながらあんまり流行りません。なにがどのようにとかどうでもいいから現在の症状を分類して治療すればいいじゃん、という「現実的」な主張と相容れ…

「チェックリスト精神医学」という残念な事態について。

チェックリスト精神医学、という、精神科医としてはぜひとも避けたい悪口があります。何のことか、例をあげましょう。 ある人が、ネット上でうつ病チェックを行い、20問中17問「はい」だったので、うつ病かなと思ってメンタルクリニックに行きました。そ…

ASDとPDDとADHDと、医学全般の考え方。

前回の記事で、ADHDの扱いが不明瞭だったのでちょっと補足します。 DSM-VではASDの診断基準もADHDの診断基準も満たす場合、ASDかつADHDです。両方ある=併存、といいます。これに対してICD-10では、PDDとADHD両方の診断基準を満たす人はPDDとして扱われます…