精神療法とは何かみたいなこと3。ふつうのことば?

「患者さんの症状について、

 彼/彼女に対して失礼にならない、ふつうのことばで症状を説明し

 おたがい納得できたならば、

 その説明そのものが治療的である」

という意味の文章を読んだことがあります。

(ちょっと翻訳しました)

 

 

ちょっと解説。

これ、主に統合失調症の患者さんの場合についてです。

(ほかの病気でもあてはまりますけれども)

 

だいたいですね、

 他人に聞こえているものを幻聴だとか

 他人が考えていることを妄想だとか

正直、失礼な話だと思うんです。

 

「もしも、わたしにだけ聞こえないってだけで、

 その声なり音なりが実在していたらほんと申し訳ない」

とか思います。(なかなか賛同は得られないけど)

 

 

自分で名前をつけている人の場合はそれを採用します。

意味については本人に教えてもらいます。

その名前がついた症状を、精神医学的に正確なことばになおすのは

こっちの仕事です。こっちでやります。

 

たとえばですけど

「考えすぎ傾向」「取り越し苦労系」「神経過敏体質」

みたいなことばを提案してみて、

相手の反応をうかがってることもあります。

ぴんとくれば、ピンときました、という反応が返ってきます。

 

なかでも「神経過敏体質」はわりとよく使います。

これ、ふつうのことばですよね。

多少は悪い意味も含まれているかもしれませんけれども

健康な人でもありうる話です。

そして、これならわたしにも想像ができる。

「神経過敏体質」について、わたしの解釈と患者さんの解釈は

だいたい一致するでしょう。

 

幻覚とか妄想とか、失礼であるというだけでなく、

なかなか、想像しづらいことがあります。

わたしにも想像できる言葉、つまり、ふつうのことばのほうがたぶん、

おたがい「わかった」「わかってもらえた」と思いやすいですよね。

 

 

精神科の病気の多くは、症状そのもののつらさに加えて、

 だれもわかってくれない!

というさみしさもつらいんじゃないかなと思うのです。

それに、症状について医者に報告するとして、

そもそもわかってもらえているんだろうかと毎回疑うのも

なんかしんどいですよね。たぶんですけれども。

 

一部ではあってもわかってくれたみたいだというのは

少しは、そのつらさをやわらげる方向にはたらくのかなと。

 

 

ただし、被害妄想など本人にダメージを与えるものについては

それは現実ではないとはっきり告げたほうがダメージが少ない場合もありえます。

そういうときには、被害妄想(など)と名付けることを提案するかもしれません。

 

 

かんたんそうに思えるでしょう。

才能のある人にはかんたんかな。

わたしにとってはけっこうむつかしいです。

患者さんの話をよく聴くことに加えて

これまで得た知識を総動員する必要があります。

 

ちなみに、この作業には、精神科の古い文献のほうが役立つように思います。

DSMより、ね。

 

 

ふつうっぽいんですけれどもそれでも

ちょっとは専門性を発揮したつもりです。

 

もちろん心理士のひとたちにも、これができる人はいるんですけれども、

いまのところ少数派のように思うのです。

医者のほうが、この件については、

情報を得やすい(医学の古典のほうが使える)かなと考えています。

 

まだあるといいなあ。つづく?かもしれません。