発達障害と障害年金。

発達障害は生まれつきの障害ですし、病気や障害のために働けなかったり生活に支障が出ていたりする人がもらうのが年金である、という定義からすると、障害年金の対象ではあります。しかしこれ、正直言って「通りづらい」です。通りづらいというのは、たとえば統合失調症躁うつ病、知的障害と比べて、です。

絶対通らないとかではありません。主治医あるいはソーシャルワーカーに相談を。

 

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なぜなんだ、障害で困っているんだから認めるのが筋だろう、って、そうなんですけどね。診断書を書く側の立場からいうと、「通る」病気/障害であればこころよく書けても、「通るかどうか微妙」な病気/障害では、躊躇してしまう医師が多いと思います。

 

 

診断書は、書くのも手間がかかりますし、診断書代は高くても病院勤務の主治医の給料は1円も変わりません。純粋な業務量増加です。また、患者さんにとってもお金と時間と手間がかかる申請なので、通らなかったら申し訳ない。実際、通らなかったからと責められるケースもかなりあります。けっこう怖いです。

 

 

証明しづらい、というのがいちばんの理由です。

 

知的障害は、知能検査である程度はわかります。知能検査の点数が低くて、生活にも支障があれば、知的障害のために生活に支障が出ていると考えてかまわないでしょう。統合失調症躁うつ病は、どういう病気なのか年金事務所もよくわかっていますから、病気にかかってからいままでの事情(病歴といいます)が統合失調症躁うつ病として典型的で、生活に支障があれば、病気のために生活に支障が出ていると考えて差し支えありません。

これに対して、発達障害は、知的障害や統合失調症躁うつ病ほどには「わかりやすく」はない。決定的な検査もありませんし、統合失調症躁うつ病ほど、どういう病気(障害)かが明らかなわけでもありません。医師によって判断がばらついたりもします。役所が「それは主治医の主観ではないのか」と疑う可能性があるわけです。

 

 

ここで大事なこと。判定するのは、主治医ではありません。本人でもありません。役所(年金機構)です。

 

 

発達障害と精神科の病気が両方あって、発達障害のせいで病気が重くなっている、というストーリーは「わかりやすい」ので、だいぶ通りやすくなります。わかりやすいというのは、役所にとって、ですよ。

 

 

ちなみに、知能検査では発達障害を「証明」することはできません。ASDらしさとかADHDらしさとかはわかるとはいえ、それだけで証明できるほどのパワーはないと考えられています。現に、行動やものの考え方が非常にASDらしい人でも、知能検査では「ASDらしさ」がほとんど認められない、なんてことはよくあります。

いくつか、「このテストが何点ならASD」と言われている検査もありますけれど、実施できる施設は限られていますし、レアすぎて「誰もが認める基準」が定まっていないのが現状です。

 

 

こんなにつらいんです、というのを並べても、それだけでは年金の対象になりません。

病気・障害が「原因で」いまの生活/仕事上の困難が発生している、という、結びつきが必要になります。この結びつきを、役所に納得してもらわねばならないわけです。

生活上の困難というのは、食事が食べられますか、風呂に入れますか、買い物には行けますか、などなど、非常に基礎的な問題のことです。まず、こういう基礎的なポイントで支障が出ている必要があります。

そして、結びつきが重要です。たとえば、躁状態で買い物に行くとお金を遣いすぎる人の場合、躁状態と買い物ができない件のつながりは明らかですよね。また、知的障害で計算が苦手な人が一人で買い物をするのが難しいというのはかんたんに想像がつきます。こういう「わかりやすさ」が求められるわけです。

躁状態や知的障害では買い物に支障が出るよね、というのは、少なくとも専門家にとっては、「ちょっと考えればわかること」です。これは、認められやすい。これに対して発達障害では、個人差も大きいですし、いまのところ、発達障害の「せいで」何にどう困るかは、「ちょっと考えればわかること」というほどの常識にはなっていません。

 

 

ちなみに、うつ病(単独)についてよく聞かれます。通りづらいし、主治医としては勧めたくないケースが多くあります。理由は、「治る病気」だからです。

 

年金は、一度通れば2年間(知的障害では5年間)もらえます。

統合失調症躁うつ病、知的障害は、2年後も「完治」はなかなか望みづらい。症状がなくても、予防はしたほうがいい状態であるとか、さすがに「完治」はないかなあ、というのが「常識」です。

そのいっぽうで、うつ病は「治る」可能性が高い。年金が2年間もらえるとして、その2年間のうちに完治したらそれってちょっと不平等な気がするわけです。それに、主治医の立場としては、とくに治療のスタートにおいては、「これから2年間、自分が一生懸命治療してもこの(治る病気であるはずの)うつ病は全然治らないと保証します」というのは、精神的にきついです。自分の治療が下手だという宣言? にも聞こえますよね。

また、まれに、「治ったら年金がもらえなくなるので、治ると困ります」とおっしゃる方もいるので、ますます気が重くなるわけです。

 

とはいえ、何度も繰り返すケースなど、ケースバイケースなので、主治医またはソーシャルワーカーに確認する価値はあるかもしれません。