精神療法とは何かみたいなこと11。分業の是非。

ここまで、精神科医と心理士、という比較をしてきました。

最大の違いは時間かもしれません。とくに病院勤務の場合、精神科医は「患者さんを診てカルテを書く」だけが仕事ではありません。そもそも、外来患者さんに加えて入院患者さんを受け持ってますし、ということは生活全般について看護師さんに指示したりもありますし、書類も多いです。なにより、患者さんの数が多い。

これに対して心理士は、「カウンセリングと記録」にほとんどの時間を費やすことができます。そして、たいていの場合1人30分とかかけることができます。それも毎回。必然的に、患者さんの数も少なくなります。

この「時間」の違いは大きいです。

 

「心理士の武器は時間だな」と心理士の友人が言っていました。彼女は非常に優秀な人なので、たぶん当たっていると思います。

 

 

というわけで純粋に精神療法と心理療法を比べたら、とくにその内容(医者は、精神療法以外にできることが多いですから、それを差し引いた場合)については、心理療法のほうがすぐれているという結論なのかなと思います。その、カウンセリングについての専門的トレーニングも大きいですね。

 

 

ただし。

保険診療においては、心理療法は主治医の指示で行われます。

つまり、患者さんは、精神療法のみか、精神療法+心理療法 を受けることになるわけです。この違いは大きいように思います。

症状の話もいいけど苦労も多かったようだし、カウンセリングでこれまでの人生をふりかえってほしいなあ、という患者さんがいたとしましょう。じっさい、ときどきいらっしゃいます。

ここでね、カウンセリングをお願いする、というのを持ち出すと、けっこうしばしば怒られるんです。「先生は話を聴いてくれないのですか」いや聴くけど…… (必要なら、診察時間を少しのばすくらいのことは可能ですし)「これまでのことをいろいろ知っているのは先生ですから先生のままで」わかりました。

これ、担当が一人のほうがいいということかなと。チーム医療の重要性が叫ばれている昨今、時流に逆らっている感じでどうも居心地が悪いのですけれど、この「精神療法」「心理療法」については、一人が担当(つまり精神療法のみ)のほうがよいこともあるように思います。

例外は特殊技能、たとえばPTSDの治療などで、これは当然その技術を持った心理士に依頼します。また、これについては患者さんもすんなり納得するケースが多いです。

 

 

先日読んだ業界雑誌に、「分業が進みすぎて、精神科医はやる気をなくしつつあるように思う」という年配の精神科医のコメントが書いてありました。わたし自身については、ひょっとしたら、精神療法(心理療法的に)とか福祉制度を勧めたり(ソーシャルワーカー的に)とか、「なんでも」やるから仕事が楽しめているのかもしれません。