精神療法とは何かみたいなこと5。伝統的?診断のこと。

たとえば、30代女性の患者さんが「最近あまりに落ち込みがひどいので来ました」と外来に来たとしましょう。

・生理前!(月経前症候群PMS)、甲状腺 ← ホルモン

・まさにうつ病躁うつ病

パワハラとか介護がとか、いろいろな「事情」 ← 適応障害

・そもそも心配しすぎる傾向 ← 不安障害/適応障害/病気じゃないけど神経質

・いじめとか虐待とかの記憶 ← PTSD

 

「よくある」のはこのへんかな、と思います。

 

これが、80代男性だとすると、

脳梗塞とか心不全とか、からだの病気の影響

・まさにうつ病(けっこう多いうえに、重症な人が多い)

認知症のはじまり

認知症を心配しすぎている

・大事な人との死別とか、施設に入ったとかの「事情」 ← 適応障害

・よく聞くと虐待の記憶があったり ← PTSD

 

ちょっと予測が変わってきます。ぜったいとは言わないけど、多数派ね。

 

これを踏まえて、もちろんDSMのチェックリストもいいんだけど、「あたりをつける」のは個人的には有益だと思っています。上記のように、年齢性別だけでもけっこういろいろわかります。また、上には書いてないけど、統合失調症はやはり、高齢者には起きないというか、起きたとしたらそれは再発でしょう。

 

前半の、30代女性について何を考えるか。

 

ホルモンの場合、甲状腺であれば内科に紹介、ですね。生理前の場合、よほどであれば産婦人科です。しかし、すでに産婦人科には受診していて、治療を要する病気はないと言われていることも多いので、この場合は漢方を使うことが多いです。これね。甲状腺については血液検査でわかるから血液検査はするとして、生理前が問題だったりします。「ひょっとして、ですけど、生理とか関係ありますか」生理不順があるとそのへん不明なことも多いので、「ものすごくイライラしてペンでも投げたくなるときと、気分は落ち着いててちょっとしたことであれば事情を聞いて、そうせざるを得なかった相手に同情してなぐさめたりできちゃうときと、なんか気分が行ったり来たりしませんか」とか聞いたりします。

後者が躁うつ病である可能性は低い、というのも大事ですね。ホルモン系の場合は、まず、調子がいいときは、テンションが上がるわけではなく、気分的に穏やかで寛容になれる。調子が悪いとちょっとしたことがものすごく気にさわって、気にさわったことをうっかり行動に移してしまって、つい泣いたりつい怒鳴ったりついペンを投げたり、わかっちゃいるけど許せない、という、「ぴりぴり」感があるのかなとか思っています。

躁うつ病であれうつ病であれ、「エネルギーがゼロ!」という感じが強いです。事情が事情(適応障害)であっても、エネルギーがゼロになればうつ病と同じような症状になります。躁うつ病の人はもともとのエネルギーが多め(活動的、決断が速い、自分で決める、身内に社長さんとかいる、中間管理職でしんどくなる、とか)で、うつ病の人はもともとのエネルギーが少なめな感じがします。あと、躁うつ病の人は、やせていても「丸い」感じがします。似顔絵を描くときに、まず丸を描いて始めたくなる。鬱病の人は縦長の丸かなあ。あと、体の症状があることが多いです。「内科に行ったけどなんともないから精神科に行けと言われた(不本意)」というのが王道パターンです。

PTSDレベルの経験をした人も「ぴりぴり」していますけれども、こっちは「次は何が起こるのか、よのなか危険がいっぱいだ!」という、身を守ろうとする「ぴりぴり」だと考えています。不安と不眠があることが多いです。過覚醒(緊張しすぎ、リラックスできない、常に警戒、何かあったら逃げるなり反撃するなり、といつも身構えている)というほうがしっくりきたりします。いいことがあっても「よかったよかった」とならないのが特徴かもしれません。「いいことがあったということは、そのぶん悪いことが起きるのかなあ」って感じです。うつ病の場合は、「いいこと」のなかに「自分が悪い!という成分」を探して、ひょっとしたら捏造する感じなんですけれども、PTSD系統の場合は、「次回」に注目していることが多いように思います。スピリチュアル系のブレスレットをつけている人が多いです。自衛でしょうね。(石がいろいろ入ってるやつ。一種類の、ファッションメインのものではなくって、というのが多い。躁病でもアクセサリーは増えるけど、その場合は金色が多くあきらかにキラキラしている)

PTSDとかではなくどっちかというと性格?で考えすぎの人は、もちろん事情が事情の場合はその事情に介入します。介護であれば介護の対象者をショートステイさせられないかとソーシャルワーカーに相談するとか。考えすぎ系統の人は、「正確に伝わらなかったらどうしよう」「だから間違いなく伝えなければ」と緊張している人が多く、事態が正確に伝達されたとわかるとずいぶんリラックスするようです。「もしこういうことが起きたらこうで、起きなかったらこうで、こういうことが起きたあとにああいうことが起きたらああで、起きなかったら…」と頭の中に樹形図が作られちゃってることが多いので、樹形図を描いた上で、「すべての事態に対応できるように準備をするというのはいいことだけど、やっぱり、最悪のシナリオしかありえない、て感じですかね」というとちょっと我に返る人もいます。「つらさそのもの」よりも「現状に至るまでの事情」をわかってほしい、って感じかなあ。「その事情であれば落ち込むのは当然ですよね」というのも大事ですよね。

あまり「急ぎ」でなければ、理由はなんにせよ漢方を使うこともあります。この場合、エネルギーが余っていてつい余計なことを言ったりやったりするのか、エネルギーが少なすぎて余計なことを言ったりやったりするのを止められないのか、で、使う漢方は真逆のものになったりします。体質に合う場合は数日で効きます。

 

こういうの、症候学だったり精神病理学だったりすると思うんですけど、(ぜったいこれが正しい、とまではいいませんけれども、いまのところわりとなんとかなってる気がします)あんまりかっこよくはないんで、教科書ではあんまり見かけない気がします。どうだろ、精神科の伝統な気もするんですけど、心理士さんでも可能かな、ただ、薬(漢方含む)がメインになることも多いので、医者のほうが対処しやすいかもしれません。