軽度知的障害/境界域の人の苦労について。

軽度の知的障害、あるいは境界域(知的障害とまではいわないけどIQが低め)のひとは正直言って人生の苦労が多いと思います。


1つ目は福祉です。たとえば年金だって、重度の知的障害なら高い確率で通ります。そのいっぽうで、境界域の場合は、他に病名がつかない限り通りません。そのほかの福祉的なサービスもおおむねそんな感じです。


2つ目は療育です。重度の知的障害は、幼いころに確実に発覚します。これはどういうことかというと、知的障害のこどものための療育が受けられるということです。たいていは、個別対応が比較的行き届いていて、知的障害のために苦手なことにも配慮してもらえて、得意なことは伸ばすように関わってもらえます。これが、軽度〜境界域では難しい。


3つ目は受け入れです。2とも関わります。重度の知的障害の場合は、幼いころに指摘され、本人も周囲も否応なしに現実に直面するため、比較的早いうちから障害の存在を認識することになります。そうすることで、苦手なこと、できないことを責めないという姿勢も獲得しやすくなります。療育の一環で、周囲の人達の支援も行われますからなおのことです。これに対して軽度〜境界域では、本人も周囲も気づかず、勉強や仕事でつまづくたびに本人が責められ自信を失うというケースが多いです。


4つ目。知的障害がある人の多くは、難しい文章を理解することができません。これはどういうことかというと、たとえば今回のコロナウイルスの件で、何が正しい情報なのか見極めるのが難しいということです。どうしても、短い文章でインパクトの大きいものに惹かれてしまう。結果的に、ワイドショーの字幕(文章が短いですよね)なら理解できるということでそれをつい信じてしまう。それしか理解できないなら仕方ないという側面はあります。役所などの手続きで困っている人も多い印象です。


5つ目。知的障害がある人は、しばしば算数が苦手です。非常にシンプルな算数でも困ることがあります。これね、財布の中身が管理しづらくなるんですよ。658円と言われたときに、財布の中の小銭を勘定して出すということがしづらい。じゃあ、というわけで千円札を出すと、おつりが342円ですね。これ、硬貨9枚です。こういうことを繰り返すと小銭はすぐに増えます。でね、これを回避する手段が、クレジットカードだったりするんです。もともと計算が苦手なものだから、支払いがみえづらいカードの管理は非常に困難です。クレジットカードでトラブルを抱えている人が非常に多い印象です。

 

精神科ではこういう人の支援を行うことがあります。とくに4ですね。たとえばコロナウイルスについての情報を簡略化して伝えるとかも含めてです。日本語学校的に「翻訳」すればいいって問題でもないので、たぶんトレーニングの方法があるんだと思っています。わたしは多少経験を積みはしたとはいえ個人の才覚に頼っていてはいつまで経っても人は増えないので、精神科医の教育課程に組み込まれないかなとか考えているきょうこのごろです。