手帳と年金以外のサポートについて。

精神科における「支援」というのはいろいろな意味があります。有名なのは障害者手帳と年金でしょうか。とはいっても、手帳と年金「だけ」ではないです。手帳と年金「だけ」を求められるとちょっと複雑な気分です。というのも、手帳や年金は、日常生活に支障が出ている人が受けるものであり、日常生活の問題を直接解決する手段は「お金」以外にも複数あるからです。

 

 

たとえば知的障害の人がいろいろな事情で入院してきたとします。たずねてみると生活が破綻している。家事もできないし、いわゆるゴミ屋敷だし、生活費の管理はできてないし。ひとまず札幌市の場合、としておきます。他の市町村では多少事情が異なる可能性があります。

 

まず考えるのはグループホームですね。これ、食事が出るのがポイントです。かりに生活費を使い切っても、食べるものがあるというのはいいことです。また、管理人さんがいますので、とくに一人暮らし初心者にとっては、ちょっとしたこと(意外といろいろ発生します)を気軽に相談できるのもメリットです。寝込んだりしたら声をかけてくれますし。心細さが減ります。

グループホームはほぼ一人暮らしですけれど、その一人暮らし能力もこころもとない場合は、自立訓練施設というものもあります。自律訓練法とか自立支援とかとは関係ないです。これは、おおざっぱにいうと一人暮らしの練習ならびに訓練を行う施設です。あるいは、グループホームにヘルパーさんを頼みます。これは、高齢者の方々の介護保険に近いですね。病気あるいは障害が生活に支障をきたしているその程度に応じて、たとえば買い物代行など、色々手伝ってくれます。一人暮らしでたとえば食事を作ってもらってる人もけっこういますね。

 

日中何もすることがないとけっこうしんどいことが多いので、人にもよりますけれどいわゆる作業所を勧めることがよくあります。グループホームに併設されている場合もありますし、それとはまったく別に通うこともあります。A型とB型がありますね。A型が就労移行支援、B型が就労継続支援です。A型のほうがより「軽い」人向けですね。「移行」というだけあって、一般就労への移行を意識しているところが多いです。最低賃金かなあ。B型は「継続」という名前の通り、そこに通い続けることがとりあえずの目標になります。時給は数百円程度です。地域包括支援センターもここに含まれますね。下記のデイケアと同じような、職場というより居場所のイメージです。作業所や地域包括支援センターデイケアは、昼食が出るのも魅力です。

 

ここまでが「障害福祉サービス」です。たとえば札幌市の事業ですね。これ、相談支援事業所というところが手続きなどを手伝ってくれますので、まずはそこに連絡をとって、面談などを経て、区役所に申し込みに行くというのが流れです。これと並行して、たとえばグループホームとか作業書とかを選定し見学などして申込みをすることになります。そのうち、診断書(必要なサービスの種類を決める)と意見書(必要なサービスの程度を決める)の用紙が病院に送られてきますので、それに主治医が記入して返送すると、上記の施設の使用許可みたいなものが下ります(利用料についてはいろいろあります)。許可が下りるまでに多少時間がかかることが多いので、区役所への申込みはお早めに。

 

さて、家事の手伝いを頼むのもいいんですけれど、看護師さんに様子を見に行ってもらうことが適切というパターンもあります。訪問看護ですね。精神科の訪問看護はなかなか何をするのか定義はしづらいのですけれど、基本的には、精神状態のチェック+生活のアドバイスです。診察においてはどうやったって家での暮らしはわかりませんから、医者としても自宅の様子などの情報は非常にありがたいです。また、たとえば診察は2週に1回、診察がない週は訪問看護というスケジュールにして、通院の負担を減らすなんてこともよくあります。

これは、通院している病院・クリニックに併設されていればそこの、そうでないあるいは遠すぎるとかであれば外部の訪問看護ステーションにお願いすることになります。これは医療の範囲ですから、医者の「指示書」が必要です。これだけであれば、相談支援事業所は不要です。通常の診察において利用するという話になれば、とくに院内の場合は主治医から訪問看護に話が行って、面談などして利用開始という感じです。医療同士なのでわりと気軽かもしれません。これは医療ですから、自立支援が適用されます。

 

また、仕事をするというにはもうちょっと病気が重い気がするとか、人間関係の練習メインがいいとかいう場合は、デイケアという選択肢もあります。病院に付属していることが多いかな。たまに独立型もありますね。これも訪問看護と同様、医療の範囲ですから、医者の「指示書」があればよく、また、自立支援が適用されます。

 

これとは別件で、生活保護もありますね。入院中に医療費の問題と当面仕事は無理という問題で生活保護を受けたほうがよいのではないかという話になることはしばしばあります。入院中なら担当の人が病院に来てくれたりもします。また、うちの病院の場合、いろいろ心もとない人にはソーシャルワーカーが手続きに付き添ったりもします。手帳や年金があると、生活保護費が多少増えたりします。これとは別に、通院費の助成も(申請すれば)受けられることがあります。これは区役所の生活保護課です。

 

また、知的障害などのため、どんなに愛情があってもこどもを育てることが難しい場合があります。片親だとさらに厳しいかな。周囲のサポートが得られなかったりサポートを受けてもやっぱり無理な場合もあります。この場合、虐待とかでは全然なくても、児童相談所に相談することがあります。シングルマザーとかでどうしても入院が必要でだれも預かってくれない場合、入院中だけ児童相談所に預かってもらう(一時保護)こともしばしばあります。これね、「虐待なんかしてないし!」と拒否する人がいるんですけど、虐待してなくても、そのほうがいいってことは残念ながらあったりするのです。もちろん、これは本人とお子さんの両方の納得が必要なことではありますけれど、少なくとも病状が悪い間は預かってもらって療養とか生活の立て直しに専念したほうがよいケースはしばしばあります。これはもちろん、児童相談所の管轄ですね。

 

最後に、職探しにおいてサポートが必要そうな場合。一般就労(バイトなど)であっても、配慮が必要な職場がよさそうだという場合。また、障害者雇用のほうがよさそうな場合。ハローワークに、「みどりの窓口」というものがあります。これ、要するに係の人が親身に相談に乗ってくれるシステムなので、病気が一段落してでもフルタイムとかちょっと自信がない、みたいな人は使ってみる価値はあります。病気です、という証明はさすがに必要で、ハローワークに申し出た上で「医師の意見書」という用紙を受け取り、主治医に記載してもらってハローワークに提出すれば手続き完了です。

 

 

ついついこっち(主治医)が手を出しすぎて反省することも多々あるとはいえ、また、「やりすぎ」だとなんとなく自由が制限される感じがするとはいっても、少なくとも一時的には使う価値のある「サービス」が多いです。そのうちにふつうに一人暮らし(あるいは、親元でもなんでもいいけど)ができるようになり、また、生活費を自分で稼げるようになれば(年金などと併用してももちろんオッケーです)、徐々に離脱していけばいいわけで。