知覚統合と問題解決能力 −知能検査について

WAIS-IIIに「知覚統合」ってありますよね。WAIS-IVでは「知覚推理」というようです。「知覚推理」のほうがわかりやすいような気もするのですけれど、ここでは、WAIS-IIIの用語を採用します。この「知覚統合」についてです。

 

何を知覚して何を統合するのか、って感じですよね。わたしはそう思いました。で、知覚統合の検査はパズルっぽいものが多いのですけれど、パズルができたら頭がいい? として、だからなんなんだと。実生活に役立つのかと。「みてわかる」能力ですと説明されることも多いのですけれど、それだってわかりづらい。

 

かんたんな例。パターン化して次を予測、みたいなことが、知覚統合には含まれます。丸が並んでいて、次を予測しましょう、という問題があったとしましょう。

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たとえば、一番上の図のままで「次はなんでしょう」とか言われても困るけど、3つが実は組になってる可能性が高いとなると、この丸の列はかなりシンプルになって、次の予測もしやすくなるわけです。

これって、「考える」ということの、かなりシンプルな例ではあります。「また同じパターンで病気が悪くなってる気がする」として、何をどう改善するか、というケースは診察場面でよくあります。「同じパターン」を抽出しないと話は始まりません。「同じパターン」を抽出して、「それはさすがに避けようよね」という相談をすることで、ひょっとしたら病気の悪化は防げるかもしれないですよね。問題解決の一例です。

この例の「問題解決」「分析」には、「同じものをセットとして扱う」「並び方などの法則を見つける」というのが含まれています。「考える」に近い感じですよね。

 

とはいっても、この「知覚統合」だけでは、実生活の問題解決は難しい場合も多いです。たとえばこの「同じパターン」も、うまいこと言い換えないと、そもそも同じパターンであると気づけなかったりするわけです。それ以前に、患者さんの言ってることの意味がわからないとかだと、分析どころじゃないです。

さらに、じつをいうと、たとえば法則の分析を行うには、「法則があるはずだと信じて探す」必要があります。実生活では、「ここに法則がありますよ」なんていうアナウンスはありませんからね。ここで効いてくるのが、経験だったりするわけです。経験は、言語理解を用いてかんたんな文章にしておくと、整理しやすいです(図で整理できる人もいるにはいるけど、例外かなあ)。そして、経験の検索には、ワーキングメモリが関わっていたりします。とっさの判断もしばしば求められるし、時間がかかると疲れてやる気もなくなるし、というわけで、処理速度が速いとなにかと有利です。

 

というわけで、実生活の「問題解決能力」には、いろいろな能力が関わっています。しかし、「いろいろ」のままでは永遠に、何ができて何ができないのかわけがわからないし測れないので、この「いろいろ」を要素に分解して、テストできる程度に単純化したのが知能検査であるともいえます。最近、以前よりは知能検査の結果を「読める」ようになってきたので、治療においてはなにかと便利だなあ、と思うようになりました。