「マルチタスク」が意味するもの。

作動記憶(WM)が高いということはマルチタスクが得意なはず、マルチタスクが苦手なので作動記憶(WM)が低いんだと思います、とかいうじゃないですか。あれ、どうしてそう広まったんでしょうね。作動記憶(WM)は「頭の中の作業テーブル」であるというたとえのせいでしょうか。

 

 

マルチタスクってなんだろう、と考えたんです。

ひとつは、実際同時に何かする、ですね。同時にってなんでしょう、走りながら水を飲むみたいなことかしら。

 

 

二番目は、工程表を組んで作業を行い、作業時間が一部かぶりつつ、出来上がりが同時になるように調整すること。料理はそうですね。味噌汁と煮物と炒めものが同時に出来上がるように、煮物を煮ながら炒めものの材料を切ったりする。厳密には、煮物を煮ているのはコンロです。「同時に」作業しているかどうかと言われるとそういうときもありつつそうでないこともありそうです。

これは、進捗に応じた予定の組み換え能力も漠然とさしていることがあります。プロジェクトが遅れているときに、どの作業が遅れているか分析して、追加で人員配置する、みたいなことですね。

これには、作動記憶(WM)が関わっているかもしれません。予定の組み換えとかかなり複雑な思考で、最初の工程表は紙に書いてじっくり考えても間に合いますけれど、細かな組み換えは頭の中でやってしまったほうが速いしスマートでしょう。複雑な思考を頭の中であれこれ、というのは作動記憶(WM)のはたらきです。

 

 

三番目は、割り込みに強いか、です。電話がかかってきた、いますぐ来いって言われた、バスが運休、あれあの人今日休みなの? みたいなことですね。予定を完璧に組んで、自分の進捗に応じて多少組み替えられる人でも、こういう、自分以外が原因の突発事態に対処するのに苦労する場合があります。

突発事態に対処する苦労というのは、実際予定がガタガタになり何もかも終わらなくなるという以外にも、リカバーに自分でも驚くほどのエネルギーが必要、ということもあります。わたしはこれですね。

 

 

もう一つは、注意の切り替えです。

たとえば上の料理でも、煮物が煮えてるかなと確認したり混ぜたりと、炒め物の材料を切ることは、いったりきたりしていますよね。煮物をコンロにかけてコンロに任せっきりにしたままだと、焦げたりします。オーブンなら大丈夫かな。西洋風。それはさておき、一見同時の作業も、いったりきたり、のことが多いです。

周りの進捗を見ながら作業する、もこっちですね。周りを見渡して進捗を確認して、自分の作業に戻り、速度や丁寧さを調節する。自分の作業だけに集中して、スピードが速すぎて、一人だけ終わってしまう人がいます。それでいいことも、あんまりよろしくないことも、両方のケースが考えられます。

 

 

まとめると、作動記憶(WM)はマルチタスクの一部には関わっているけれど、全部ではなく、「マルチタスクができなくて困ってます!」という訴えは実際それが何を指しているのか分析の余地があるということですね。「作動記憶(WM)が高いのにマルチタスクが苦手とか言ってる」みたいに、一般的なイメージとなんとなく食い違うときには、詳しい分析は有用だったりします。