選択の自由とか相手自身をネタにした脅迫とか、自分の意志が行方不明になってしまうトリックとか。

最近ずっと悩んでいたことに解決のきざしが見えてきたので、自分のためもかねて書いてみます。といっても事情を説明すると長くなるので、例でお話ししますね。

 

太郎くんと花子ちゃんがいて、チーズケーキとアップルパイが1個ずつあるとしましょう。太郎くんも花子ちゃんも、チーズケーキを食べたいと思っています。1個ずつ食べるとして(半分に切るなどの選択肢はいまはないものとします)、話し合いなりじゃんけんなりで決めますよね。

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話し合いの前に、太郎君はこう言いました。

「俺はぜひともチーズケーキが食べたい。もしもチーズケーキが食べられなかったら、ショックで3日間くらい寝込むかもしれない。そもそも最近、精神状態がすごく悪いんだよね」

太郎君と花子ちゃんは、これから、対等に話し合えるでしょうか。

太郎君にとっては、チーズケーキとアップルパイの比較ですね。太郎君にとっては、チーズケーキの勝ちです。

花子ちゃんにとっては、チーズケーキとアップルパイの比較、というだけではありません。(チーズケーキ+自分がチーズケーキを食べたときに太郎くんに与えるだろうダメージ)とアップルパイの比較です。太郎君に与えるだろうダメージも考え合わせると、花子ちゃんがアップルパイを選ぶ可能性は高そうですよね。

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そういうわけで、太郎君はチーズケーキを、花子ちゃんはアップルパイを、それぞれ食べました。

 

次の日、やはり二人は、チーズケーキとアップルパイを1個ずつ手に入れました。

じゃあアップルパイで、と、アップルパイに手を伸ばす花子ちゃんは、浮かない顔をしています。太郎君はそれが気に入りません。「アップルパイを選んだのは自分なのに、浮かない顔をしているのはおかしい」と、花子ちゃんを責めます。

花子ちゃんは、きのう、確かに「自分で」アップルパイを選びました。「アップルパイを選べ」と、太郎君に命令されたわけではありません。なので、アップルパイを選んだのは自分なのだから、望みどおりにアップルパイが手に入ったのだから、笑顔でいなきゃいけないんだな、と、がんばって笑顔を作りました。

太郎君は続けて言いました。「チーズケーキが食べたいなら、食えばいいじゃないか」花子ちゃんはあわてました。太郎君に寝込まれたら罪悪感でしばらく悩みそうだからです。仕方ないので、花子ちゃんは、「もともと、アップルパイが食べたかったのよ。チーズケーキは太郎君、どうぞ」と、アップルパイを皿に取りました。

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こう書くと、「なにかおかしい」というのが伝わるかしら。

 

1)最初の話し合いは、対等ではありません。花子ちゃんにとっては、(チーズケーキ+自分がチーズケーキを食べたら太郎くんが寝込むかもしれないこと)と、アップルパイの比較になっています。これでは、花子ちゃんがチーズケーキを選ぶのは難しいですよね。チーズケーキを選ぶ自由があると言われても、困ってしまうわけです。「太郎君が3日間寝込んでもいいや、と、精神状態の悪い太郎君をさらに苦しめるようなことをしていると知りつつ」チーズケーキを選ぶ自由、と言われても、それは、「たんに、チーズケーキを選ぶ自由」とはぜんぜん違います。理論上は可能でも、チーズケーキを選ぶ自由はほぼゼロになっています。

 

2)太郎君は、「アップルパイを選んだのは自分なのに、浮かない顔をしているのはおかしい」と花子ちゃんを責めています。でも、花子ちゃんは、太郎君の事情を抜きにすれば、チーズケーキが食べたいわけです。選択の自由が奪われている状態で、仕方なくアップルパイを選んでいます。しかしここで、花子ちゃんが、「自分が」アップルパイに手を伸ばして皿に乗せた、という事実に「のみ」注目した場合、花子ちゃんは、責められていることに納得してしまうのです。ほんとうは、事実上の強制があったにもかかわらず、直接的な力が行使されていないため、「自分が」「自発的に」アップルパイを選んだ「はず」だと、決定そのものの意味を変更してしまうわけです。相手に責められる=相手が正しい、と思いこんでいると、この事態は非常に起きやすくなります。また、ここで反論すると太郎君が寝込むかもしれないと心配して、こころのなかの反論ですら「なかっったこと」にするケースもありそうです。

 

3)「チーズケーキを食べたいなら、食べたらいいじゃないか」という太郎君の発言がありますね。

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そう言われても、花子ちゃんは、自分のせいで太郎君が寝込んでも困るから、チーズケーキは選べません。そのうえ、2つ目のポイントで述べたように、花子ちゃんはすでに、「自分が」「自発的に」アップルパイを選んだ「はず」だと思い込んでしまっています。自発的にアップルパイが食べたい程度にはアップルパイが好きだということだ、と、(事実に反して)考え始めます。あるいは、太郎君を寝込ませてまでチーズケーキが食べたい=太郎くんが寝込んでもかまわない=太郎くんに寝込んでほしい、なんて思われたら困る、とパニックにおちいるかもしれません。太郎君に、ひどいやつだと思われるのもつらいですけれど、自分で自分のことをひどいやつだと思うのも、同じくらいつらいです。

その結果、花子ちゃんは、アップルパイを食べさせてほしいとわざわざ頼むことになります。

 

4)太郎君は、自分はチーズケーキが食べたいわけです。でも、花子ちゃんがチーズケーキを食べたいのを無視して、話し合いとかじゃんけんとかも経ずに自分がチーズケーキを食べた、というのは良心が痛みます。太郎くんとしては、花子ちゃんがもともとアップルパイが食べたかったというストーリーが一番ありがたいわけです。ほら、花子ちゃんは、自分がアップルパイが食べたいと頼んできたではありませんか。めでたしめでたし。

 

起こっていたことの概要はこんな感じです。花子ちゃん=あずさです。アップルパイが食べたいわけじゃないのに、わたし、どうしてアップルパイが食べたいと言って頼んでいるんだろう、いや、アップルパイが食べたかったのかな、でも…… と、ずっとごちゃごちゃ悩んでました。

いろんなところに、花子ちゃん(あずさ)の勘違いがあらわれていますね。こんな手口に引っかかるのはわたしだけかな、わかんないですけど。