ASD傾向のある患者さんへの「あたりまえの」対応について。
入院時の外出は、わたしの勤めている病院では16時までです。16時までに、病棟に戻ってこなければなりません。
ASD傾向のある人が、これに納得できないとしましょう。ASD傾向のある人は、病棟スタッフの間で、「しつこい」「何度も窓口に来る」「しかも納得しない」という定評がありました。つまり評判がよろしくない。
看護師さんは困ると主治医を呼びます。看護師さんの説明では納得しないから、主治医が説明して納得させるべきだ、というわけです。
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16時までに戻ってくるというのは病棟のルールだけど、でも納得できないのよね?
ー なんで16時?俺は17時まで用事があるのに。夕食は18時じゃん。
看護師さんって日勤と夜勤があるじゃない?日勤は人数が多くて、夜勤は少ないよね。
ー それはわかる。
この交代が16時半で、16時からは引き継ぎタイム。
ー そうだったのか。
この時間はさすがに、わたしにも院長先生にも変えられないわ。申し訳ない。
ー そりゃそうだ。
つまり、日勤の看護師さんが外出から帰ってきた人の対応(買ってきたもののチェックとか)ができるのは、16時までなのよね。
ー それはわかるけどさ、看護師さんは、人数が少なくても何人かはナースステーションにいるんだから、俺の買ってきたものとかくらいチェックしてくれたっていいじゃん。
看護師さんの数が少ないってとこまではわかった?
ー うん。
重症患者さんが何人かいるの知ってる?
ー まあね。いるよね。
重症患者さんの世話とかに、その少ない看護師さんって、忙しいと思わない? 重症患者さんは優先してあげてほしいなあ。
ー まあね。重症患者はね。世話はいるよね。でもさ、外出して17時に帰ってくるやついるじゃん。知ってるし。
いるね。わたしも知ってる。
ー じゃあ俺だっていいよね。
それは主治医の許可がいるって言われなかった?
ー 言われた。
その患者さんの主治医の先生は許可したんだと思うよ。他の先生方の考えはわたしにはわかんないし、わたしにはどうしようもないわね。
ー 俺の主治医のあずさ先生はどうなの? 許可してよ。
あのさ、外出の理由って、看護師さんが重症患者さんの世話をすることより大事?
ー いや、まあ、買い物だし。
でしょ。もしも、重症患者さんよりも重要な理由があるときにはもちろん許可するから、そういう理由があるときには言ってよね。
ー 了解。
というわけで16時に戻ってきてね。きょうのところは。
ー 仕方ねえな。どうしてものときは許可してよね。
そこは安心して。いってらっしゃい。
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あずさ:「16時には帰ってくるって」
看護師:「なんか普通に出かけていきましたね。納得したみたい。主治医パワーですか」
あずさ:「なんですかそれは… 単に、彼的に腑に落ちたんだと思うけど」
(後日)
看護師:「わたしが同じように説明したら納得してました」
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たとえば、看護師さんには日勤と夜勤があって、交代時間は決まっていること、というのは、患者さんにもわりと簡単に理解できると思います。そういう、患者さんにもわりと簡単に理解できることまで、話を分解するのが必要なのかなと思うのです。
また、上記のうち、16時より遅く戻ってくることの許可はあずさの裁量の範疇です。これは、わたしの権限/責任で「許可しない」。ファイナルアンサーです。責任の所在は明確に、というのも大事かなと思います。他人の責任でわたしにはどうにもならない、という場合も同様です。上記であれば、「他の先生が主治医の患者さんたち」のことがそれにあたります。
さらには、どんなに分解してもたとえば「昔に制定されたままの現代にそぐわない理不尽なルール」でしかないものもときどきあります。それは単に病院の都合、ってこともあります。これらについては、なるべく率直に認めて謝るようにしています。
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ここまでやれば、(って、あたりまえのことのように思いますし定型の人にも必要な対応のようにも思うんですけれども、まあとにかく、)相手の知的レベルに合わせて分解の程度を調整することで、ASD傾向があってもわりと楽に病棟ルールに馴染める患者さんが増えました。一回納得してしまえば彼らは病棟ルールをきちんと守るので、そういう患者さんの評判は、最近わりといい感じです。