アスペの論理/道徳その16 思考実験。アスペの国の定形族、就労編。

まだ続きます。

アスペ98%の国に、数十人の定型族が移住してきて、ひとまずは自治区に住むことになりました。定型族についての研究班が設置され、レポートを発表しております。

 

6) 定型族と就労問題

定形族はわれわれの提供した自治区に居住しているため、自給自足のための産業、すなわち衣食住に関わる仕事にたずさわる者が多い。しかし、彼らの中には本国で異なる仕事についていたものも多いうえに、生活必需品について輸入に頼らざるをえないものも多いため現金収入を必要としている。つまり、わが国の企業に就職を希望する者たちが多く存在する。

これについても、わが国の代表的企業に依頼して数人の定型族を雇用してもらい、彼らの問題点を抽出して解決を図り、マニュアルを作った上で自由な就労を許可するという方法をとった。以下、就労についての問題点および解決策、今後の就労について前提となる研修について記す。

第一の問題点は、定型族は「世間話」と称する業務と無関係な話を就業時間内に行うことを当然と考えていることである。これについては数回の指導で改善したものの、今度は作業効率が落ちてしまうものが現れた。「息が詰まる」「非人間的環境だ」というのが彼らの感想である。総じて、周囲を気にするばかりで業務に対する熱心さが認められないものが多い。よって、一部の者については、短時間勤務のみ許可することが望ましいと思われる。

第二の問題点は、ルールの遵守が徹底されないことである。就業規則については事前に書面で通知されているにも関わらず、自分たちで「これは理想論である/細かすぎるから守らなくてよい」などと判断して、意図的にルール違反を行う。処罰の対象となることは当然であるにも関わらず、処罰されることについて「理不尽だ」と、驚く者が数名いた。定型族については評判が落ちいずれは企業が彼らを雇わなくなる可能性が高いため、就労前には一律に訓練を行い、業務における基本姿勢などを学ばせる必要がある。

その他の問題点は、これまで述べてきた問題と共通するため、詳しくは前項を参照していただきたい。簡単にまとめると、職場で定型族は1人しかいないにも関わらず、また、彼らの「常識」とわれわれの「常識」が異なっていることは自明であるにも関わらず、自分こそが多数派で、それゆえに自分こそが正しい・自分のやりかたこそが業務改善につながるという思い込みから脱却できないことである。

はじめに配属された単純作業において作業効率がよくないことを自覚し、営業や総務で働くことを希望した者も多い。しかし、これまで述べてきたようなコミュニケーションの様式の違い・非論理性・議論に不慣れでしかもしばしば議論が始まると怯えることから、対人業務につくことは一般に望ましくない。もちろん適性のあるものは存在するし、これからわれわれの学校において教育を受け修了したものは十分な能力を発揮できる可能性が高いので、全員について就労形態や業務内容を制限するのは不適切であろう。適宜能力を査定したうえでの柔軟な対応が望ましい。

今後は、わが国の企業に就職することを希望する定形族には一律に研修および試験の合格を義務付ける。不合格の者には再受講を許可する一方、定形族のスタイルから脱却できないことが明らかなものには、指導員などを配置した作業所を紹介することもあるだろう。作業所については、とくにはじめのうちは採算が取れないことも考えられるため、公的支援を計画している。

繰り返す。今のままではわが国の企業の間で定型族の評判が落ち彼らの就職に差し支える可能性が高いため、十分な研修を行う必要がある。また、研修が修了できない者には、就労後もなんらかの補助を与えることとする。

彼ら自身のコミュニティは存在するとはいえ、労働は国民の義務であると同時に権利でもあるから、わが国に属する以上その権利は保証される。能力の高いものは存在するし、そうでなくとも労働者が増えることは国の利益になることが明らかであるため、長い目で見れば彼らの就労も、わが国にとっての利益となるであろう。