知能検査で計れるものその1。言語理解。

ASDの診断において、補助検査といいつつしばしば行われるのが知能検査です。知能検査のうち、WAIS-IIIとよばれるものがしばしば用いられます。ASDの診断には補助的に用いるにすぎませんけれども、本人のためになる情報がいろいろ得られるので、行われる頻度は高いです。

 

たとえばこういう結果が出ますよね↓

vIQ 140  pIQ 132  fQ 139  VC 144  PO 135  WM 121  PS 124

ほとんど何のことだかわからない、ですよね。IQと書かれているのは総合点みたいな感じで、vIQ 言語性IQ pIQ 動作性IQ fIQ 全検査IQ ということになります。その右が回項目で、VC言語理解 PO知覚統合 WM作動記憶 PS処理速度 です。

 

今回はこの、VC=言語理解についてです。

 

言語理解で何を測っているのかは、言語理解がどのような検査の点数から計算されるのかという問いと同義かもしれませんね。言語理解を計るには、1)単語の意味を述べてもらう 2)いわゆる常識をたずねてみる 3)単語と単語の共通点を述べてもらう という3つのテストを用います。

 

単語の意味というのは語彙ですね。語彙が少なすぎると言葉を使いこなすのは難しいです。そりゃそうですね。常識もそうかな。「今年はオリンピックもあるし」って、オリンピックってなんですか、では、会話になりません。

これ、観察力にも関わってくるというのが個人的な印象です。虹の色が3色である民族もいるという話がありますね。あれ、虹の色が3色に見える視力障害?だという話ではありません。虹の色を表現するのに用いられる単語が3つしかないという意味なんです。名前がないものを区別するのは非常に難しい。区別はできても、その区別を記憶するための負担が激増します。

 

問題は(3)の、単語と単語の共通点でしょうか。たとえば、「酢」と「醤油」。物質でも液体でも合ってはいるけど、まあ、調味料ですかね。これね、酢はこういうものです、醤油はこういうものです、というのと、ちょっと違います。ひとつひとつの単語には、意味だけでなく、位置みたいなものがあると思うのです。

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ベン図にしてみました。たとえば、塩も酢も調味料ですけれど、前者は固体、後者は液体ですね。水も酢も液体ではありますけれど、前者は調味料ではありませんし、後者は調味料です。そんな感じ。

ものあるいは概念には、こんな感じで、「〜ではある」「〜ではない」の「属性」がいっぱいくっついてきます。これは、ふつうに定義を述べる上では、すべてを列挙する必要はありません。しかし、実際にはいっぱいある。そして、ものごとを整理する上では、この属性のどれかを使っていくことになります。調味料の棚に入れるかどうか? 液体用の容器を使うかどうか? 大豆アレルギーの人に出してもいいか? みたいなことですね。整理整頓。そして、属性のうちひとつを取り出して他をとりあえず無視することを、抽象化といいます。醤油と酢から調味料という属性を取り出すことも、抽象化です。

たぶんこの「共通点」を見いだす力というのは、抽象化の能力にも通じていて、複雑なものごとを扱うには話を単純化すること、つまり抽象化が便利であることを考えると、「むつかしいことをかんがえる」力に通じるのかな、とも思ったりします。政治について考えるのに、日本人1億人以上の個別事情をすべて考慮したらたぶんいつまで経っても何も決まりませんよね。そんな感じです。

また、味噌など見たことはないが大豆から作る調味料ということは醤油の仲間ということだよね、みたいに、未知の単語や概念について学ぶことの助けになったりもします。文中に知らない単語が出てきたときに、対処できる可能性が変わってくるわけです。

言い換えもそうですね。醤油は、それが調味料だという意味であれば酢で代用してもいいし、それが大豆製品であるという意味であれば味噌で代用しても構わないわけです。いまどの単語を何で代用してもかまわないのか、これは、相手に対してわかりやすい話をするというだけでなく、自分にとってわかりやすい文章に直して記憶・処理するという操作に関わってきます。

ほんとはね、抽象化するのはいいんだけど、抽象化したものから具体例に戻す力というのはまた別で、とか思ったりする(戻せない人も多いです)んですけど、まあ、そのへんはテストの限界です。

 

で、VC(言語理解)が高いということは、観察力が高いことに加え、難しい文章を理解できる可能性が高い(難しい単語を知っていたり、知らなくてもなんとかなったり、自分にとってわかりやすい文章に書き換えたり)、また、それを記憶したり、他人に伝達できる可能性もそれなりにある、ということに通じます。

VCが4項目のうち最高のわたしの実感としては、まあ、そこそこ便利、って感じです。「天才」に近いのは、他の項目、とくにPO/WMの高い人達かなあ。そのへんはまた後日。