アスペ的論理/道徳その17。思考実験。アスペの国の定型族。定型族の能力を活かす。

今回がいちおう、このシリーズ最終回です。ひょっとしたらまだ書くかもしれないけど。

 

アスペ98%の国に、数十人の定型族が移住してきて、ひとまずは自治区に住むことになりました。定型族についての研究班が設置され、レポートを発表しております。

 

7) 定型族の能力およびその活かし方

定型族にについては、問題点が複数ある。その主なものとしては、論理能力の欠如・有言実行が徹底されない・多数派であることへのこだわり、が挙げられる。これらはとくに就労の際に問題となり、業務のさまたげ、ひいては定型族全体の評判の低下につながる。

しかしながら、定型族には、これらの問題点があるにもかかわらずこれまで彼らの社会を維持しそれなりの発展を遂げてきたという実績がある。ということは、彼らの特性にも少なくとも、定型族のみで構成された集団内においては、何かポジティブな側面があると推測される。

彼らの特性には、定型族が住んでいたのが狭い島国であることが関わっているとわれわれは考えている。狭い島国においては、追放が死を意味する。定型族のみで構成された集団内においては、目立つということは注目されるというリスクであり、それは何かのターゲットになるリスクを意味する。「一人だけ」注目され、理由はともかく追放の対象として選ばれた場合、狭い島国ではそれは死にもつながりかねない。よって目立たずに周りに合わせて集団行動をとるようになった。このストーリーは、定型族においても納得できるという者が過半数を占めた。

集団行動が是とされる場合、「協調性」が重要視され、集団から外れたものには制裁が加えられる可能性が高い。定型族のリーダーに確認したところ、やはり、和をもって尊しとなすという格言が流通しているとのことであった。

また、定形族の歴史においては、数人からなるグループが熱意を持ってたとえば新製品の開発に取り組み目覚ましい成果を挙げたというエピソードが散見される。これは、熱意を持つものが多数派であればそのグループのメンバーは全員熱意を持つこと、また、そのグループそのものが共同体において例外的存在であり冷遇されていたとしても素晴らしい成果をあげれば事後的には承認どころか称揚されるであろうこと、という定型族の特性で説明がつく。

もちろん、定型族の中には、論理や実行の能力が高く、われわれの教育に適応してわれわれの企業などで問題なく働けているものも存在するため、われわれの企業が定型族に対して門戸を閉じるのは非論理的である。少なくとも機会は与えるべきであろう。その一方で、定型族は定型族のみで構成されるグループにおいて卓抜した能力を発揮する可能性も高く、その場合は、彼らのみのグループの存在を認め、さらには、予測される迫害からわれわれが保護する必要があるかもしれない。現在、そのための制度づくりについて現在討論が行われている。

 

8)定型族とわれわれの歴史についての付言

一連の調査において、定型族の歴史上、わが国の国民が彼らの島に漂着したというエピソードが発見された。珍しがられた後に、能力があきらかに高い一人は手厚い待遇を受け定型族のなかで活躍し、その他は不遇をかこつ、という結末になったようである。差別的待遇を受けたというのが定説である。

わが国の国民が彼らの国で悪い待遇を受けた可能性が高いとはいえ、それは現在の彼らが行ったことではない。そういう事態につながりかねない問題はその都度解決しつつ、彼らの能力を活かし、わが国の発展に寄与させるのが正しい行いであるとわれわれは考える。

相違と優劣を混同する非論理的な者がわが国にも絶対存在しないとまでは言えない。よって、われわれの側でも、差別や蔑視を警戒し、われわれとは思考の構造が違う定型族を公平かつ正当に扱いつづけるためには労力を惜しむべきではない。そしてこれを、われわれの公平さや論理能力の高さを、内外にアピールしていく機会としてとらえることが、わが国のさらなる発展につながるであろう。

今後も問題は起こるであろう。しかし、わが国の国民と新たに国民となった定型族とが協力してそれらの問題を解決していくことは可能であろうし、そこからいまは予想できない進歩が生まれるかもしれない。

 

わが研究班の報告は以上である。なお、調査研究はまだ続いているので、続報があればその都度発表する予定である。