DSM-VとICD-10と、ASDとPDD。

アスペ界隈で最近、DSM-Vということばを目にしませんか。精神障害の診断と統計マニュアルのことです。もともとは研究(→データ解析・統計)のための基準だったものが、世界中で採用されるようになりいつのまにか診断に使われるようになってきた、という「病気の定義集」です。

DSMという、精神科診断の辞書というかマニュアルというか、について。 - 精神科医的ひとりごと(仮)

同じようなアルファベット?に、ICD-10というものがあります。これは、「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」というもので、

  • 精神科に限らずすべての病気が対象
  • いわゆる統計(死因とか、WHOでも日本政府でも統計をとってますよね)目的
  • 世界共通の診断基準(と、自らを定義)

という点がDSM-Vと異なります。WHOなので、世界共通とか自信を持って言ってますね。DSMはもともとは研究用ですし、【アメリカ】精神医学会が作っていますので、世界共通とかちょっと言いづらかったりするようです。

 

ICDがもともと統計用でかつ身体の病気も含めた診断基準の体系であることから、多くの書類(たとえば、精神障害者保健福祉手帳の診断書)にはICD-10のコードと病名が必要です。日本の精神科医は全員、ICD-10を日常診療で使っているとも言えるでしょう。これに対してDSMは、少なくとも書類には不要です。DSMを使って診断してもいいですけれど、個人の裁量の範疇であるといえそうです。なので、最新はDSM-Vであっても、ICD-10DSM-V、精神科医によってどちらを重視するか、意見が分かれるところです。

 

さて、ICD-10DSM-Vでは、アスペの扱いが違います。というか、DSM-Vではアスペ、出てきません(!)

 

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PDD: 広汎性発達障害ASD: 自閉症スペクトラム障害 です。

PDD全体とASDのカバー範囲は、だいたい同じです。(超マイナー疾患の扱いがちょっと違います)PDDでは、PDDと定型発達の差もくっきり分かれていますし、PDDの中身(自閉性障害/アスペルガー症候群/特定不能の広汎性発達障害=PDD-NOS)も、それぞれくっきり分かれています。ちなみに、知能が正常(それ以上)のうち、言語発達に遅れがないものをアスペルガー症候群と呼びます。知能が正常(それ以上)であっても、言語発達に遅れがある「高機能自閉症」は、知的障害をともなう自閉症と同じグループである「自閉性障害」に分類されます。また、PDDとADHDは併存しません。両方の診断基準を満たすひとは、PDDと診断されます。

PDDの概念はちょっとかっちりしすぎて、図はきれいなんですけど実際の患者さんをどうやって分類したらいいかわからなくなるケースが多く、結果的にPDD-NOS(特定不能の広汎性発達障害)が増えてしまいますから、関係者が「もっと分類したい!」と残念な気分になったケースも多いことでしょう。それでも、高機能自閉症(知能は正常あるいはそれ以上、言語は苦手)やアスペルガー症候群(知能は正常あるいはそれ以上、言語は得意)、カナータイプ/古典的自閉症(知的障害をともなうもの)という分類はやっぱり便利なように思います。完全に診断基準を満たすのは難しいとしても、概念的に、です。

PDDにおいては、アスペ(ことばが得意)がある意味特別扱いになっています。これ、たぶん、コミュニケーションが苦手なはずのPDDにおいて、主要なコミュニケーションツールである言語が苦手という謎の存在として注目を浴びたんだろうな、と、想像したりしています。

ASDはもうちょっとそのへん、ふわっとしてますよね。スペクトラムというくらいですし。個人的には、ASDというと広すぎる感じがしなくもないです。ICDに慣れてるからかもしれません。

 

 

ちなみに。DSM-IVからVへの変更は最近行われました。「このうつ病の患者さんは、DSM-Vの時代になると、うつ病という診断ではなくなるので、うつ病の治療は行えなくなる」なんて主張が専門の雑誌に載っていたことがあります。DSM-IVからVへの変更で同じ患者さんへの治療が変わるだなんて、ひょっとしてジョークだったのかしら。

ともあれ、定義は変わっても、本人が何でどのように困っているかが変わるわけではない、ということは、頭の隅に置いておいて損はないのかなと思ったりします。