アスペ的論理/道徳その14 思考実験としての定形族レポート。いじめに関して。

アスペ98%の国に、定型族が移住してきました。子どもたちによる集団暴行事件が起こり、調査が行われています。

 

5)集団暴行事件について(「いじめ」という特殊用語が使われる)

定形族の移住後数ヶ月したある日、わが国の指導/観察員が、小中学生による集団暴行事件を目撃した。加害者および被害者の様子から、その日が初めてではなく複数回繰り返された暴行であると推定された。指導/観察員は直ちに警察に通報、加害者は全員現行犯逮捕された。これは、定形族がわが国に移住してから起こした最初の犯罪であり、わが国には認めないタイプの犯罪であること、また、加害者が多数であることから、これらをすべて逮捕・投獄・追放したと仮定すると彼らの自治区が崩壊しかねないことから、特に一章をさいて報告するものである。なお、周知のことながら、当該自治区治外法権ではない。わが国の司法/警察の管轄下におかれていることを付言しておく。

当日およびそれまでに被害者に対して加えられた危害には、傷害罪・暴行罪や恐喝罪、侮辱罪など多岐にわたる。当然ながら法的措置の対象でありそのように処遇されている。ところが、逮捕勾留を知らされた彼らの保護者からは、「逮捕勾留されるほど悪質な事件ではない」というコメントが多数寄せられた。その旨定形族自警団長に確認したところ以下の回答を得た。

「行為そのものについて正面切って問われると確かに犯罪に相当する行為である。しかし、子どもどうしのそのような行為については、『いじめ』という名で呼び、犯罪としては扱わないのが通例であり、よって警察も、死亡/重傷事例でなければ介入しない」

当該事件は弁解の余地なく犯罪であるため、特別な名称・特別な扱いの理由をあらためて問いただしたところ意味のある回答は得られなかった。このような重大犯罪を放置するということはわが国に対する犯罪行為とみなされると通達したところ、「被害者にも問題があった」と主張する者が現れた。仮に問題があったとして、集団暴行事件の被害者になることにつりあうほどの犯罪行為が存在したのかと質問したところ返答はなかった。これまでそのような至極当然のルールすら徹底されない後進国から来たことを鑑み情状酌量してほしいとの嘆願が寄せられたため、再発予防策の立案・実施・実施記録の提出を義務付けた上で、懲役の対象となった者について1年ずつの期間短縮を与えることとした。

また、以下の内容を文書にして定形族自治区の教育責任者および全世帯に配布した。

問題は言語すなわち討論によって解決すべきである。仮に討論で解決せずやむを得ず物理的手段を行使するという結論に至った場合は公正なルールに基づき立会人を設定して臨むべきであり、既存のスポーツを用いることが望ましい。それでもなお私的制裁にこだわる場合は、当事者は損害賠償および慰謝料に加えて投獄などを含めた相応の処罰を覚悟すべきである。今後同様の事件が起こった場合には、加害者のみならず加害者の養育/指導の任にあたる者たちも全員が処罰の対象となり、場合によっては定形族全員の国外退去に至る可能性もある。これらを周知徹底の上、特に子どもたちについては今後3ヶ月以内に少なくとも1度、その後は年に1度以上の頻度で、学校で講義を行うことを義務づける。

わが国においても、傷害事件など故意の加害行為はゼロではない。しかし、それらが露見した際は処罰の対象となることは国民全員がルールとして認識しており、処罰をまぬがれたものあるいは罪を償ったものに対して社会全体で再発予防のための指導を行うことがあたりまえとされている。また、犯罪の特徴として、一対一が圧倒的に多い。多数で一人の被害者に対して暴行を加えるという事例は非常に少なく、これまで数例報告のあった集団暴行のケースにおいては私怨であってもそれなりの被害に対して報復するために協力者を募ったなどの情状酌量可能な理由が認められている。このような集団暴行事件の背景に、司法体制および個々の法感覚以外の問題が存在すると考えられるものの、現在のところ仮説にとどまっている。その仮説については後述する。